私は30歳の時、事故で右手を失いました。
剣道家としての人生が終わったと感じた瞬間もありましたが、
諦めずに「世界に一つだけの中段用義手」を作り上げ、
再び道場に立つことができました。
この義手は竹刀を握るためだけでなく、
支えとなり、中段の構えを安定させ、
打突の威力を引き出すために特別設計されています。
本記事では、義手の工夫、体全体を使う稽古法、
そして愛用している義手を写真付きで詳しく紹介します。
世界に一つの中段用義手が生まれるまで

義手をつけて剣道を行うには、
単に竹刀が振れればいいというものではありません。
特に中段の構えは竹刀を振り上げて振り下ろすことが重要で、
既製品は存在しません。剣道は「気・剣・体の一致」
で一本になります。中段で剣道をするには義手が必要不可欠でした。
なぜ、中段にこだわるのか
少年指導をするにあたり、面・小手・胴を正しく打たせて
あげたいという気持ちからです。すべては基本がすべてです。
その基本を教えてあげることで子供たちの成長に繋がるからです。
そのためにもどうしても右手の小手が必要でした。
また、正しい構えを教えるためにも右手の形にもこだわりました。
義手へのこだわり

竹刀が振れれば何でもいいって言う訳にはいきません。
振る感触や打突感を感じることで、
私の打突がどんな状態化を知ることができます。
剣道って意外と繊細なんですよ。
義手の作成
私の義手は右手で竹刀を握ることができません。
中段の構えを取った時に竹刀の刃筋を保つ。
また、義手に小手を付けるので手の大きさに近いもを
作成しようと思いました。義手の作成も入院中の川崎医大付属病院の
先生に協力して頂き作成ができました。
右手の形と強度
右手の型は、その当時の指導者に協力して頂き、
型取りを行いそれを私の義手のモデルとして作成をしました。
形もですが、竹刀を振って、打たれて、体当たりをしてと、
強度も必要でした。ここは、義手を作成してくださった
橋本義手製作所様を大いに悩ませてしまいました。
義手の中身は、カーボンであったり、鉄やシリコンであったり
色々と工夫をして頂きました。木の一刀彫も作成して頂きました。
軽量化すると竹刀の安定感がなくなるので、
重量感がある方がいいかなって感じです。
装着方法

装着は、義手がソケット式になっており、
右手にシリコンライナーを付けて右手に装着します。
右手を失って学んだ体の使い方

義手で剣道をするようになってから、私は腕の力に頼らず
体全体で竹刀を操作することの大切さを痛感しました。
左手主導と体幹連動
片手で竹刀を扱うためには、左手の握りと振り下ろしを正確に
行う必要があります。しかし左手だけではスピードも威力も不足します。
そこで足腰と体幹を同時に使い、踏み込みと打突を一体化させることで、
右手があった頃と変わらない鋭い一撃を生み出せるようになりました。
中段からの打突は右手の連動も必要でした。
中段の構えにおける下半身の役割
義手で中段を取る場合、上半身の動きよりも下半身の安定が
さらに重要です。膝を柔らかく保ち、腰を安定させ、
重心をやや低くすることと中心の攻め、
相手の攻撃を受け止めながら、竹刀を振るために肩と肘を使い、
即座に反撃できる状態を常に保っておく必要があります。
右手を失ってから、この「足腰の安定と肩と肘の使い方」
が打突力の源であることを深く理解できました。
義手剣道家としての進化
義手は作成したら完成品ではなく、
稽古の中で常に改良できることはないかを考えています。
試合や稽古で見つかる小さな課題を一つずつ改善していく過程が、
剣道の修行そのものです。いかに、強く速い打突ができるかを
常に考えながら稽古をしています。
正しい構えから正しい打突が生まれるので、
一本一本正しい構えを意識しています。
義手だから見える景色
義手を使うようになってから、相手の構えや呼吸、
間合いの変化に敏感になりました。右手を失ってからは、
一本に対する想いが強くなりました。
連続技を繰り出すことが困難なため、一撃で一本を取る・倒すという
気持ちが強くなりました。そのためにも一本の重みを知り、
体全体を使う打突の重要性が理解でき、
以前よりも一本の質が向上したと感じています。
同じ境遇にある人への提案
義手やケガで剣道を諦めかけている方に伝えたいのは、
「防具と工夫次第で必ず道は開ける」ということです。
剣道は体全体で行う武道
剣道は腕力だけでは成立しません。
下半身の安定、体幹の力、呼吸、間合い、
それらが一体となって初めて一本が生まれます。
防具と技術は進化している
現代の義手や剣道防具は、昔に比べて格段に進化しています。
自分に合う形を追求し続けることで、必ず可能性は広がります。
あきらめて、くじけそうな人に
義手と共に中段で構え、竹刀を振れる日が私には戻ってきました。
世界に一つの義手は、私のモノです。ぜひ、私と剣道をしてみましょう。
「全国・世界」どこでも行きますよ。
私みたいにあきらめなければどこかで道が開けると思います。
みんなさんに、少しでも勇気と希望を与えられればと思います。
次回は、私自身が実践している稽古方法をお教えいたします。
また、いろいろなスポーツ関連商材も紹介できればと思います。
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